淋病(淋菌感染症)とは淋菌による性感染症です。性交渉や性交類似行為(オーラルセックスなどのこと)により感染します。咽頭や女性に感染した場合は、無症状で経過することが多いため注意が必要です。
本記事では、淋病の概要や感染経路、男性と女性の症状の違い、放置するリスク、クラミジアとの違いなどを解説します。
淋病(淋菌感染症)とは?
淋病とは淋菌による性感染症です。淋病の感染者数は、2002年から2003年をピークに減少傾向で、2019年辺りまではほぼ横ばいでした。しかし、2020年から2021年にかけて増加傾向にあるため注意が必要です。
感染すると男性は尿道炎の症状が現れますが、女性の場合は無症状で経過することが多いため、症状がないからといって安心はできません。女性が淋病に感染すると不妊や流産、早産などにつながる恐れがあります。
コンドームの使用をはじめとして、不特定多数との性交渉を避けて、感染予防に努めることが大切です。
淋病の主な感染経路は性交渉による接触感染
淋病は性交渉による接触感染が主な感染経路です。また、以下のような性交類似行為でも、感染するため注意が必要です。
性交類似行為 | 詳細 |
---|---|
オーラルセックス | 口を使って相手の性器を刺激すること。 |
アナルセックス | 男性の性器を相手の肛門へ挿入する行為。 |
咽頭に感染して症状が現れないまま気付かず、パートナーに感染させてしまうこともあります。
淋菌は粘膜から離れると数時間で死滅して感染性を失います。そのため、性交渉や性交類似行為以外で感染することは少ないです。しかし、淋菌に汚染された手指やタオルを介して、親から子どもの眼に感染したと報告もあるため注意が必要です。
淋病の男性と女性の症状
淋病の男性と女性の症状には、大きな違いがあります。男性は急性尿道炎の症状が現れることが一般的なのに対して、女性は無症状で経過することがあります。ここからは、男性と女性の淋病の症状の違いを解説します。
男性は急性尿道炎の発症が一般的である
男性の性器に淋菌が感染すると、急性尿道炎を発症することが一般的です。感染後、2〜7日後の潜伏期間を経て、以下のような症状が現れます。
- 尿道から膿や粘液性の分泌物が出てくる
- 排尿時にうずくような痛みが現れる
悪化すると前立腺炎(前立腺が炎症すること)や、精巣上体炎(精巣の横にある部位が炎症すること)が引き起こされることがあります。これらを発症すると、陰嚢の腫れやうずくような痛み、発熱などが現れます。
治療しないままにしていると、無精子症(精液の中に精子がない状態)が引き起こされる恐れがあるため、疑われる症状が現れたら医療機関を受診してください。
また、尿道が狭くなり排尿しづらくなるなどの後遺症が現れることもあります。なお、男性も場合によっては、無症状で経過することがあります。
女性は自覚症状がないことが多い
女性の性器に淋菌が感染した場合は、膿や粘液性の分泌物が見られることがあります。しかし、症状が軽いため気付かずに放置されることが多いです。治療されずに症状が進行すると、以下のような合併症を引き起こし不妊につながる恐れがあります。
合併症 | 特徴 |
---|---|
骨盤炎症性疾患 | 骨盤内にある子宮や卵管(子宮と卵巣に間にある細い管)、卵巣などで感染性の炎症が生じる病気。 |
卵管不妊症 | 卵管に何らかの問題が発生して、精子と卵子が出会うことができず妊娠しづらくなること。 |
子宮外妊娠 | 受精卵が子宮内膜以外の場所に着床してしまうこと。 |
咽頭や直腸、眼などに淋菌が感染した場合に発症する病気
淋菌はオーラルセックスやアナルセックスにより、咽頭や直腸、眼などに感染することがあります。感染すると以下のような病気を引き起こします。
病気 | 特徴 |
---|---|
淋菌性咽頭炎 | オーラルセックスにより感染する。自覚症状が乏しい。 |
淋菌性結膜炎 | 性器分泌物が眼に入り感染する。眼の充血や痛み、眼脂(目やにのこと)などの症状が現れる。 |
淋菌性直腸炎 | アナルセックスにより感染する。直腸から肛門にかけての痛みや、しぶり腹(便意はあるが便が出ない症状)、白色または膿性の分泌物、下痢、血便などの症状が現れる。 |
淋菌性咽頭炎は自覚症状が乏しいです。つまり、知らない間にオーラルセックスにより感染するまたは感染を広げている恐れがあります。
妊娠中の淋病の感染による母親や赤ちゃんへの影響
妊娠中に淋病を発症すると、流産や早産のリスクが高まります。また、妊婦が淋病を発症してそのままにしておくと、出産時に母親から赤ちゃんの眼に淋菌が感染して、新生児結膜炎を発症する恐れがあります。
新生児結膜炎の症状は以下の通りです。
- まぶたが腫れ上がる
- 眼から大量の膿が出てくる
場合によっては失明することもあります。これらを防ぐためにも、妊娠を希望している段階から感染を防ぐことが大切です。
淋病を発症している妊婦が出産した場合は、感染予防のために新生児に抗菌薬(細菌を死滅または増殖を抑える薬)の目薬を投与する必要があります。
淋病を放置するとどうなるのか
淋病は放置すると、以下のようなことが起きる恐れがあります。
- 全身性の症状が現れる
- 合併症を引き起こすリスクがある
それぞれの詳細を解説します。
全身性の症状が現れる
淋病は治療しないまま放置し続けると、播種性淋菌感染症(はしゅせいりんきんかんせんしょう)を引き起こすリスクがあります。播種性淋菌感染症とは、淋菌が血液内に侵入して全身に広がっている状態です。
発症すると以下のような症状が現れます。
- 関節痛
- 関節炎
- 発熱
- 寒気
- 皮疹
関節痛と関節炎は、全身の複数箇所に現れます。播種性淋菌感染症の発症率は、淋病を発症している全体の0.5〜3%です。
合併症を引き起こすリスクがある
感染が全身に広がるに伴い、以下のような合併症を引き起こすこともあります。
合併症 | 特徴 |
---|---|
心膜炎 | 心臓を包んでいる心膜に炎症が起きる病気。発熱や胸の痛み、息苦しさ、体のだるさなどが現れる。深呼吸をすると胸の痛みが悪化する特徴がある。 |
心内膜炎 | 心臓にある弁の膜や心臓の内側の膜に菌の塊が形成される病気。発熱や寒気、息苦しさ、食欲の低下、だるさ、筋肉痛、関節痛など多岐にわたる症状が現れる。 |
髄膜炎 | 脳や脊髄を覆う髄膜に炎症が起こる病気。発熱や頭痛、嘔吐などの症状が現れる。 |
これらの合併症は生命に関わる恐れがあります。淋病を疑う症状が現れたら医療機関を受診してください。
淋病とクラミジアの違い
淋病とクラミジアの違いは以下の通りです。
淋病 | クラミジア感染症 | ||||
---|---|---|---|---|---|
病原体 | 淋菌 | クラミジア・トラコマチス | |||
感染経路 | 性交渉、オーラルセックス、アナルセックス | ||||
潜伏期間 | 2〜7日間 | 1〜3週間 | |||
症状 | 男性 | 尿道のかゆみ、尿道からの粘液や黄色の膿、排尿時の痛み、性器全体の腫れなど。 | 半数は症状が現れない。尿道のかゆみ、排尿時の軽い痛み、尿道からの分泌物など。 | ||
女性 | 無症状が多い。緑黄色のおりものや尿道からの膿など。 | 無症状が多い。黄色のおりもの、下腹部の痛み、出血など。 | |||
検査 | 尿、おりもの、尿道の分泌物、咽頭ぬぐい液、咽頭うがい液を採取して調べる検査。 | ||||
治療 | 抗菌薬の注射また内服 | 抗菌薬の内服 | |||
妊婦への影響 | 早産や流産のリスクの上昇 | ||||
赤ちゃんへの影響 | 結膜炎や関節炎のリスクの上昇 | 結膜炎や肺炎のリスクの上昇 |
淋病の主な検査方法は尿やおりものを調べる検体検査
淋病の主な検査方法は、以下の検体を採取して検査を行います。
- 尿
- おりもの
- 尿道の分泌物
- 眼の分泌物
- 咽頭ぬぐい液
- 咽頭うがい液
淋病を発症している方は、20〜30%の割合でクラミジア感染症も合併しているため、クラミジアに対する検査も行うことを推奨します。
また、パートナーも感染していることが多いです。パートナーも検査を受けて、感染していた場合は放置しないで治療を受けましょう。
淋病の治療方法は抗菌薬の投与
淋病の主な治療方法は抗菌薬の注射または内服です。しかし、近年では淋菌の薬剤耐性菌が報告されており、注射による治療が一般的になってきています。
薬剤耐性菌とは、特定の種類の抗菌薬が効かないまたは効きにくい菌のことです。自己判断による治療の中断は、薬剤耐性菌を発生させてしまう恐れがあります。
薬剤耐性菌が発生してしまうと、本来は軽症で治せる感染症でも治療が難しくなり、重症化や感染拡大のリスクが高まります。症状が治まったからといって自己判断で治療を中断せず、医師の指示通りに進めてください。
淋病の感染予防のポイント
淋病に対する予防接種などはありません。以下のポイントをおさえて淋病の感染を予防しましょう。
- コンドームを適切に利用する
- 感染の疑いがある人との性交渉、性交類似行為は避ける
- 不特定多数との性交渉、性交類似行為は避ける
- 定期的に検査を受ける
コンドームは100%感染を予防できるわけではありません。コンドームが覆われていない部分から感染することがあるためです。女性は特に無症状で経過することがあるため、不特定多数との性交渉等は避けてください。
また、淋病は一度治っても何度でも感染します。本人またはパートナーに疑われる症状が現れた際は、検査を受けるようにしてください。
性病検査は医療機関だけなく、保健所などで無料かつ匿名で受けられる場合があります。管轄の健康福祉センター等に問い合わせてみても良いでしょう。
淋病を広げないまたは予防するために正しい知識を身に付けよう
淋病は、男性の場合は尿道から膿や排尿時の痛みなどの症状が現れますが、女性は無症状で経過することが多いため注意が必要です。
また、男女ともに咽頭に感染した際は自覚症状が乏しいため、感染に気付かずオーラルセックスなどにより感染が拡大する恐れがあります。
女性は進行すると不妊につながる恐れがあり、妊婦においては早産や流産のリスクが高まります。産道を介して生まれた赤ちゃんに感染する恐れもあるため、妊娠前の性病検査は大切です。男性においても、無精子症につながる恐れがあります。
予防するためには、まずコンドームを適切に使用して、不特定多数との性交渉を避けるようにしてください。疑われる症状が現れた際は、本人だけなくパートナーも検査を受けて適切な治療を進めましょう。
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