
梅毒は日本で増加傾向にある性感染症。発症後、症状が消失する時期があり気づきにくいのが特徴的です。感染から早い段階でも神経系の合併症が起こる場合があるため、早期治療が重要です。本記事では梅毒の概要から経過別の症状、感染予防の方法などを解説します。梅毒の理解を深めるために役立ててください。
梅毒とは近年日本で感染者数が増加している感染症

梅毒とは、梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌が引き起こす性感染症。発症すると症状の出現と消失を繰り返すことがあり、発見が遅れる傾向があります。
治療しないでいると、細菌が全身に広がりさまざまな臓器に悪影響を及ぼす恐れがあります。後遺症の発生や生命に関わる場合もあるため早期治療が重要です。
日本では、男性は20〜50代、女性は20代で感染者が増加しています。感染を未然に防ぐには、正しい知識に基づいた適切な感染対策が必要です。
梅毒の感染経路は性行為による接触感染
梅毒の感染経路は、皮膚や粘膜が感染部位に触れることによる接触感染です。性交渉だけでなく、以下の性交類似行為でも感染します。
性交類似行為 | 詳細 |
---|---|
オーラルセックス | 口や舌を使って性器を刺激する行為。 |
アナルセックス | 男性の性器を相手の肛門に挿入する行為。 |
梅毒は喉や口の中にも感染します。キスだけでも感染するリスクがあるため注意が必要です。梅毒は症状が自然に消えることがありますが、これは治ったわけではありません。感染から1年以内は、症状がなくても他人へ感染させるリスクが高いため、注意しなければなりません。
梅毒の潜伏期間と経過別の症状
梅毒の潜伏期間は約3〜6週間。発症後は一般的に以下のような経過をたどります。
経過 | 現れる主な症状 |
---|---|
約3週間後 | 口の中や性器にしこりや潰瘍(深い傷のこと)などが現れる。 |
約数カ月後 | 手のひらや足の裏にバラ疹(赤いバラのような発疹)が現れる。 |
約数年〜数十年後 | 皮膚や骨にゴム腫(ゴムのように柔らかい腫瘍)が現れる。 |
それぞれの詳細を解説します。
感染から約3週間後|口の中や性器にしこりなどが現れる
梅毒に感染すると、約3週間後に口の中や性器、肛門などにしこりや潰瘍が現れます。これらの症状は痛みが伴わない傾向です。治療をしなくても自然に消失しますが、体の中から細菌が消えたわけではありません。
いつの間にか病気が進行する恐れがあるため、疑われる症状が現れている方は医療機関の受診を推奨します。
感染から約数カ月後|手のひらや足の裏にバラ疹が現れる
治療しないで3カ月ほどたつと、細菌が血流を通して全身に広がります。特徴的な症状は痛みを伴わないバラ疹です。バラ疹が現れる部位は以下の通りです。
- 手のひら
- 手の甲
- 足の裏
- 膝から足首
- 前腕
- 背中
その他にも以下のような多彩な症状が現れます。
症状 | 特徴 |
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丘疹性梅毒疹 (きゅうしんせいばいどくしん) | 全身に現れる鮮紅色の丘疹(ブツブツのこと)。 |
粘膜疹 (ねんまくしん) | 口の中や陰部などの粘膜にできる発疹。 |
扁平(へんぺい)コンジローマ | 肛門周囲や外陰部にできる湿り気のある発疹。 |
発熱や体のだるさなどの症状が出現する場合もあります。この段階でも症状が消失する場合がありますが治癒したわけではありません。放置すると重い合併症を引き起こす恐れがあるため、適切な治療を受ける必要があります。
感染から約数年〜数十年後|皮膚や骨にゴム腫が現れる
治療しないで感染から数年たつと、ゴム腫という特徴的な症状が現れます。ゴム腫は骨や筋肉、皮膚、臓器に形成され、周辺の組織を破壊する恐れがあります。
とくに懸念されるのは、脳や脊髄などに感染が広がった際に現れる合併症です。具体的な合併症は以下の通りです。
合併症 | 特徴 |
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大動脈瘤 (だいどうみゃくりゅう) | 人の体の最も太い血管の一部がコブ状に膨らむ病気。血管のコブが大きくなると破裂する恐れがある。 |
大動脈弁逆流症 | 心臓内の全身に送る側の弁の開閉が適切に行われず血液が逆流する病気。悪化すると心不全につながる恐れがある。 |
脊髄癆 (せきずいろう) | 細菌により脊髄の一部が変性する病気。歩行障害などが現れる。 |
進行麻痺 | 細菌が中枢神経にも感染している状態。認知機能の低下や精神症状などが現れる。 |
抗菌薬による治療方法が普及している現在では、この段階まで進行することは少ないです。
梅毒を放置した場合の後遺症について

治療の開始が遅れて神経梅毒を発症すると、後遺症を引き起こす恐れがあります。神経梅毒とは、前述した脊髄癆や進行麻痺のことです。早期においても脳の神経や髄膜(脳や脊髄を覆う膜)に炎症を引き起こす神経梅毒を発症する恐れがあります。
早期の神経梅毒では、以下のような症状が出現する場合があります。
- 頭痛
- 視力障害
- 聴覚障害
治療が遅れると失明や難聴につながる恐れがあります。これらの後遺症を防ぐためにも、早期治療が大切です。
妊娠中の梅毒感染の危険性について
妊娠中の女性が感染すると以下のようなリスクが高まります。
妊婦への影響 | 流産や死産のリスクが高まる。 |
---|---|
胎児への影響 | 先天梅毒を発症する恐れがある。 |
それぞれの詳細を解説します。
妊婦への影響|流産や死産のリスクが高まる
妊娠中に梅毒に感染すると、以下のようなリスクが高まります。
高まるリスク | 詳細 |
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流産 | 妊娠22週未満でお腹の赤ちゃんが亡くなってしまうこと。 |
早産 | 妊娠22週から36週までの間に赤ちゃんを出産すること。 |
死産 | 妊娠22週以降に赤ちゃんが亡くなった状態で出産すること。 |
梅毒を合併している妊婦の4分の1は、妊婦健診を未受診または不定期受診の方です。治療が遅れるとリスクも高まります。妊娠前の検査はもちろん、妊婦健診は定期的に受けるようにしてください。
胎児への影響|先天梅毒を発症する恐れがある
妊婦が梅毒に感染していると、胎盤を介して胎児にも感染する恐れがあります。胎児に感染することを先天梅毒と言います。出生時は症状が現れない傾向です。しかし、経過に応じて以下のような症状が現れます。
- 皮疹
- 目の炎症
- 難聴
- 貧血
- 鼻炎
- 軟骨の炎症
- 点状出血(斑点のような出血のこと)
- 黄疸(肌などが黄色くなる)
先天梅毒を発症すると、赤ちゃんのその後の人生に影響を及ぼす恐れがあります。近年先天梅毒の届出数が増えています。妊娠前から検査を受けるようにしましょう。
妊娠中に適切な治療を受ければ、多くの場合(約99%)は予防できるとされています。出産後は、半分は治癒し、4分の1は後遺症が発生して、4分の1は死亡すると報告があります。
梅毒の主な検査方法は血液検査
梅毒の主な検査方法は、医師の診察と血液検査です。感染の状態を適切に判断するためには、医師へ正確な情報を伝えることも大切です。検査を受ける際は、感染が疑われる時期やコンドームの使用の有無などを伝えましょう。
また、パートナーも感染していることが多いです。必要に応じて検査と治療を受けるようにしてください。地域によっては、管轄の保健所で匿名かつ無料で検査を受けられる場合があります。気になる方は管轄の保健所に問い合わせてみましょう。
梅毒の主な治療方法は抗菌薬の投与
梅毒の主な治療方法はペニシリンという抗菌薬の投与です。日本では内服による抗菌薬の投与が一般的でしたが、近年では筋肉注射による治療も行われています。神経梅毒を発症している場合は、点滴による抗菌薬の投与が必要です。
内服治療においては、たとえ症状が消失したとしても、自己判断で内服を中断しないでください。確実に治療を終えるために医師の指示通りの期間は内服を続けましょう。
梅毒の予防方法について

ここからは、梅毒の基本的な感染予防について解説します。
性交渉の際はコンドームを使用する
「梅毒感染者と性交渉をしない」「不特定多数と性交渉をしない」などが感染予防の基本です。相手が感染者であると気づけないこともあるため、コンドームの適切な使用が大切です。
ただし、使用したからといって100%予防できるわけではありません。覆われていない場所から感染する恐れもあります。感染を予防または拡大させないために、本人およびパートナーに疑われる症状が現れている場合は、検査を受けるようにしてください。
オーラルセックスの際もコンドームを使用する
梅毒に限らずですが、オーラルセックスによる感染拡大が増えています。実際に梅毒においては、口内に病変が現れている割合が約30%という報告があります。これはコンドームを使用せずにオーラルセックスが行われていることが原因です。
尿道炎を発症している患者さんを対象にした調査を参考にすると、性交渉の際に90%の方がオーラルセックスを行っており、その内コンドームを使用する方は1%もいないと報告があります。これらの調査からわかるように、感染対策が行われていないオーラルセックスによる感染拡大が懸念されています。
梅毒に関するよくある疑問
ここからは梅毒に関するよくある疑問について解説します。
梅毒とヘルペスの違いは?
梅毒とヘルペスは発疹やできものなど、一部の症状が似ています。大きく異なる点は痛みの有無です。梅毒の症状は痛みを感じにくい傾向があります。一方、ヘルペスは強い痛みが出る特徴があります。
とはいえ、梅毒においても、できものが潰れると痛みが現れることがあり、自己判断で見分けることは難しいです。気になる症状が現れている方は、医療機関を受診してください。
心当たりがないのに感染することはある?
極めてまれですが、傷のある手で細菌に汚染された物品に触れることで感染するケースがあります。また、梅毒は症状が消失する時期があります。この間に性交渉等を行った場合にも、感染する場合があるため注意が必要です。
梅毒の感染を予防するために正しい知識を身に付けよう

梅毒は近年増加傾向の性感染症です。性交渉だけでなく、性交類似行為でも感染する恐れがあるため注意しなければなりません。梅毒は早期治療が重要です。疑われる症状が現れている場合は医療機関を受診してください。
感染を予防するには「感染者と性交渉しない」「不特定多数との性交渉をしない」が基本です。性交渉だけでなく性交類似行為においても、コンドームを適切に使用して感染予防に努めましょう。
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【重要なお知らせ】
性感染症内科の診療は、大森ステーション内科小児科クリニックで対応しております。当院で扱う疾患や検査については、以下のページで事前にご確認いただけます。