コラム

【一覧表】脂質異常症(高脂血症)の治療薬の必要性や副作用を解説

脂質異常症とは、中性脂肪やLDLコレステロールが血液中に多い状態で、放置すると動脈硬化が進行して、脳梗塞(のうこうそく)や心筋梗塞(しんきんこうそく)のリスクが高まります。本記事では、脂質異常症の治療薬の概要、必要性、開始の目安、種類、主な効果、副作用について解説します。

脂質異常症(高脂血症)の治療薬とは?

脂質異常症の治療薬は、中性脂肪やLDLコレステロールを下げるための薬です。ここからは、薬物療法を実施する必要性や開始の目安、脂質異常症の診断基準を解説します。

薬物療法を実施する必要性と開始の目安

薬物療法が必要になるのは、LDLコレステロールや中性脂肪が異常値になった際です。しかし、一般的には食事療法や運動療法から開始して、改善が見られない場合に薬物療法を検討します。また、脂質異常症と以下のような病気の既往がある場合は、合併症のリスクが高まるため早期に薬物療法の検討が必要です。

合併症のリスクが高まる病気詳細
糖尿病血管内の血糖値が高い状態。血液の流れが悪くなり動脈硬化が進行する
慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)何らかの病気で長期にわたり腎臓の機能が低下している病態
非心原性脳梗塞(ひしんげんせいのうこうそく)動脈硬化が原因とされる脳梗塞
末梢動脈疾患(まっしょうどうみゃくしっかん)足の血管に動脈効果が起こり、血管が細くなったり詰まったりする病気

脂質異常症の診断基準

脂質異常症の診断基準となる数値は以下の通りです。

項目脂質異常症の基準値
高LDLコレステロール血症140mg/dL以上
低HDL(善玉)コレステロール血症40mg/dL未満
高トリグリセライド(中性脂肪)血症150mg/dL以上(空腹時採血)
175mg/dL以上(随時採血)
高non-HDLコレステロール血症170mg/dL以上
出典:日本動脈硬化学会|動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

non-HDLコレステロールとは、HDLコレステロールを引いたすべてのLDLコレステロール値です。

【一覧表】脂質異常症の治療薬の種類

脂質異常症の治療薬の一覧は以下の通りです。

種類一般名主な効果
スタチン系製剤プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンなど肝臓でコレステロールが合成されるのを抑制する
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬エゼチミブ小腸でコレステロールが吸収されるのを抑制する
陰イオン交換樹脂(いんいおんこうかんじゅし)コレスチミド、コレスチラン小腸でコレステロールが吸収されるのを抑制する
プロブコールプロブコール胆汁へのコレステロールの排出を促す
PCSK9阻害薬エボロクマブ血液中から肝臓へのコレステロールの取り込みを促す
フィブラート系薬ベザフィブラート、フェノフィブラート、クロフィブラート肝臓で中性脂肪が作られるのを抑制する
選択的PPARαモジュレーターペマフィブラート脂質の代謝を高める
n-3系多価不飽和脂肪酸(えぬさんけいたかふほうわしぼうさん)イコサペント酸エチル、オメガ-3脂肪酸エチル肝臓で中性脂肪が作られるのを抑制する
ニコチン酸誘導体(さんゆうどうたい)ニコモール、ニコチン酸トコフェロールコレステロールや中性脂肪の代謝を改善する

コレステロールを下げる薬

ここでは、コレステロールを下げる薬の主な効果や投与方法、副作用などを解説します。

スタチン系製剤 

スタチン系製剤は、高LDLコレステロール血症の患者さんに使用する第一選択の薬です。

一般名プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンなど
投与方法内服薬
効果肝臓でコレステロールが合成されるのを抑制して、LDLコレステロール値を下げる
副作用・肝臓障害(肝臓に炎症が起きて何らかの異常が起きている状態)
・間質性肺炎(かんしつせいはいえん:肺の空気を取り込む部分の周囲の壁が硬くなる病気)
・ミオパチー様症状(筋肉に障害が起きて筋肉の痛みや筋力の低下が起きる)
・横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう:筋肉が溶けるまたは死滅することで筋肉の痛みや脱力感が起きる)

スタチンは、併用してはならない薬が複数あるため注意が必要です。また、胎児に奇形(きけい)を生じさせるリスクがあるため、妊娠中の女性、妊娠を希望する女性、授乳中の女性は内服してはいけません。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬は、高LDLコレステロール血症の患者さんに使用する薬です。

一般名エゼチミブ
投与方法内服薬
効果小腸でコレステロールが吸収されるのを抑制して、LDLコレステロール値を低下させる
副作用・消化器の症状(便秘や下痢、腹痛、吐き気など)
・肝臓障害
・ミオパチー様症状

エゼチミブは、ワルファリン(血液をサラサラにする薬)の効果を高める作用があるため、内服中の方は注意が必要です。

陰イオン交換樹脂

陰イオン交換樹脂は、高LDLコレステロール血症の患者さんに使用する薬です。スタチンを副作用の観点から使用できない際に選択されます。

また、薬物療法が必要で妊娠中もしくは妊娠の可能性のある方に対しては、スタチンではなくレジンの使用を検討します。

一般名コレスチミド、コレスチラン
投与方法内服薬
効果小腸でコレステロールが吸収されるのを抑制して、LDLコレステロール値を低下させる
副作用・消化器の症状
・ビタミン類の吸収阻害

陰イオン交換樹脂は、ワルファリンやジキタリス(心臓の働きを改善する薬)の効果を低下させるため、併用する際は注意してください。また、ビタミン類や葉酸の吸収を抑制する働きもあるため、長期間内服する際はビタミン類の補給が必要です。

プロブコール

プロブコールは、高LDLコレステロール血症の患者さんに使用する薬です。

一般名プロブコール
投与方法内服薬
効果胆汁へのコレステロールの排出を促すことで、LDLコレステロール値を低下させる
副作用・消化器の症状
・肝臓障害
・発疹(ほっしん:肌にできるぶつぶつや赤み)
・不整脈(ふせいみゃく:心臓のリズムが乱れる病気)

プロブコールは心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを下げられると言われています。

PCSK9阻害薬 

PCSK9阻害薬は、スタチンによる治療効果が低い、または心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高い場合などの高LDLコレステロール血症の患者さんに使用します。

また、家族性高コレステロール血症(遺伝により若いときからLDLコレステロールが高く動脈硬化が進む病気)である場合にも使用します。

一般名エボロクマブ
投与方法皮下注射
効果血液中から肝臓へのコレステロールの取り込みを促すことで、LDLコレステロール値を低下させる
副作用・注射部位の痛みやかゆみ、赤み、腫れなど
・鼻咽頭炎(びいんとうえん:鼻と喉の間に炎症が起きる病気)
・胃腸炎(胃や腸に炎症が起きる病気)

PCSK9阻害薬は強力な薬です。長期投与する際は、特に効果や安全性を注意深く見る必要があります。

中性脂肪を下げる薬

次に中性脂肪を下げる薬の主な効果や投与方法、副作用を解説します。

フィブラート系薬 

フィブラート系薬は、高トリグリセライド血症の患者さんに使用する薬です。

一般名ベザフィブラート、フェノフィブラート、クロフィブラート
投与方法内服投与
効果肝臓で中性脂肪が作られるのを抑制、または分解を促して中性脂肪値を低下させる
副作用・横紋筋融解症
・胆石症(たんせきしょう:肝臓や胆のうに石ができる病気)

フィブラート系薬は、腎臓に障害のある患者さんに使用すると、横紋筋融解症を起こしやすい特徴があります。特にスタチンと併用する際は注意が必要です。

また、フェノフィブラートは胆石を生成するリスクがあるため、胆のうに病気がある人は内服してはいけません。

選択的PPARαモジュレーター

選択的PPARαモジュレーターは、高トリグリセライド血症の患者さんに使用する薬です。

一般名ペマフィブラート
投与方法内服投与
効果脂質の代謝を高めて中性脂肪値を低下させる
副作用胆石症

腎臓や肝臓に影響が少ないのが特徴で、スタチンとの併用も安全性が高いとされています。ただし、すでに腎臓の機能が低下している場合は内服してはいけません。また、シクロポリン(免疫を抑制する薬)やリファンピシン(結核の薬)との併用もできません。

n-3系多価不飽和脂肪酸

n-3系多価不飽和脂肪酸は、高トリグリセライド血症の患者さんに使用する薬です。

一般名イコサペント酸エチル、オメガ-3脂肪酸エチル
投与方法内服投与
効果肝臓で中性脂肪が作られるのを抑制、または分解を促して中性脂肪値を低下させる
副作用・消化器症状
・出血傾向(血小板が集まるのを抑制するため出血しやすくなる)

血液をサラサラにしたり炎症を抑えたりする作用があるため、動脈硬化の予防が期待できます。

コレステロールと中性脂肪を下げる薬

コレステロールと中性脂肪を下げる薬には、ニコチン酸誘導体という薬があります。高LDLコレステロール血症や高トリグリセライド血症の患者さんに使用します。

一般名ニコモール、ニコチン酸トコフェロール
投与方法内服投与
効果代謝を改善してコレステロール値や中性脂肪値を低下させる
副作用・かゆみ
・顔面潮紅(顔の血管が広がり赤くなる)

ニコチン酸誘導体は、インスリン(血糖値を下げるホルモン)の効き目を悪くする可能性があるため、糖尿病の方は注意が必要です。

脂質異常症の治療薬に関する疑問 

ここからは、脂質異常症の治療薬に関する疑問について解説します。

コレステロールの薬を飲み続けるとどうなるのか

脂質異常症の薬を長期間飲み続けると副作用のリスクがあるため、定期的な検査が必要です。検査のペースは、投与を始めてから半年に2〜3回ほど、その後は3〜6ヵ月に1回ほどが推奨されます。

特に薬を併用する場合は、副作用が起きる可能性が高まるため注意が必要です。医師の指示に従い定期的な検査を受けましょう。

痩せる効果があるわけでない

脂質異常症の薬は、LDLコレステロールや中性脂肪を下げる効果が期待できるだけで、体重を減らす効果があるわけではありません。痩せることを目的に自己判断で内服するのは控えてください。

肥満症の治療も食事療法と運動療法が基本です。医師や看護師に相談しながら治療を進めましょう。

脂質異常症の薬物療法は医師と十分に相談して進めましょう

脂質異常症の治療薬は、LDLコレステロールや中性脂肪の数値を低下させる薬です。食事療法や運動療法で、期待される効果が得られなかった場合に薬物療法を検討する必要があります。

脂質異常症の治療において、たとえ薬物療法を開始しても生活習慣の改善は必須です。合併症を引き起こさないためにも食事療法や運動療法を継続してください。

薬物療法は効果だけでなく、副作用の観点からも定期的な検査や医師の評価が必要です。医師や看護師に相談しながら、自分の病状に沿った治療を進めましょう。