ヘルパンギーナとは、夏に子どもを中心に流行する感染症です。突然の発熱やのどの痛みなどの症状が現れるのが特徴です。一般的には自然治癒しますが、合併症や脱水症を引き起こすこともあるため注意が必要です。本記事では、ヘルパンギーナの概要や感染経路、子どもと大人の症状の違い、注意すべき症状などを解説します。
ヘルパンギーナとは夏に子どもを中心に広がる感染症
ヘルパンギーナとは、夏に子どもを中心に流行する感染症です。罹患するのは5歳以下の乳幼児がほとんどです。ヘルパンギーナは、毎年5月から増え始めて、7月頃に流行のピークを迎えます。8月頃から徐々に減少して、9〜10月にかけてほとんど感染者が現れなくなります。
原因となるウイルスは、主にコクサッキーウイルスA群です。コクサッキーウイルスB群やエコーウイルスが原因となる場合もあります。ヘルパンギーナを発症しても、多くの場合は自然治癒し予後は良好です。
ただし、まれに髄膜炎や心筋炎などの合併症を引き起こすため注意が必要です。また、口の中の痛みにより水分補給が進まず、脱水症を引き起こすこともあります。そのため、無理のない範囲でこまめに水分摂取を促すことも大切です。
ヘルパンギーナの感染経路
ヘルパンギーナの感染経路は以下の通りです。
感染経路 | 詳細 |
---|---|
飛沫感染 | 感染者の咳やくしゃみにより飛散したウイルスを口や鼻から吸い込むことで感染する。飛沫が目などの粘膜に付着しても感染する。 |
接触感染 | 感染者が咳やくしゃみを手で押さえたあと、その手で非感染者に触れることで感染につながる。家具などウイルスに汚染された物を介して感染することもある。 |
経口感染(糞口感染) | 感染者の咳やくしゃみなどにより汚染された食べ物を摂取することで感染する。感染者の便などが口に入った際に感染する。 |
ヘルパンギーナの子どもと大人の症状の違い
ヘルパンギーナの主な症状は以下の通りです。
- 突然の発熱
- のどの痛みや発赤
- 口の中の水疱(すいほう:みずぶくれ)
- 食欲不振
- 全身のだるさ
- 頭痛
子どもと大人では、症状の現れ方が異なる場合があります。ここからは、子どもと大人の症状の違いを解説します。
子どもは口の中の痛みで不機嫌や哺乳障害が現れる
子どもの場合は、口の中の痛みにより以下のような症状が見られることがあります。
- 不機嫌にぐずっている
- 食べたり飲んだりしない
- 哺乳しない
- いつもよりもよだれが多い
- 冷たい飲み物しか飲まない
これらの症状に伴い、水分が十分に取れず脱水症になることがあります。以下のような様子が見られる場合は、脱水症の疑いがあるため速やかに医療機関を受診してください。
- ぼんやりとしている
- おしっこの量や回数が少ない
- 口の中が乾燥している
- 泣いたときの涙が少ない
- 頭の上にある頭蓋骨の隙間がへこんでいる
大人が感染すると重い症状が続く恐れがある
大人がヘルパンギーナを発症すると、39℃を超える高熱や強い体のだるさ、関節の痛みなどの重い症状などが続くことがあります。大人がヘルパンギーナを発症した際は、周囲に感染を広げないために、数日間は出勤や外出を控えたほうが良いでしょう。
一般的に、大人は免疫機能が発達しており、体力もあるためヘルパンギーナに感染しにくいです。しかし、体調を崩している方や高齢者は免疫機能が低下しているため、ヘルパンギーナを発症することがあります。子どもからウイルスをもらうことがあるため、ヘルパンギーナに感染した子どもの世話をする際は、十分な感染対策を行ってください。
ヘルパンギーナの合併症と注意すべき症状
ここからは、ヘルパンギーナの合併症と注意すべき症状を解説します。
髄膜炎や心筋炎などを合併することがある
ヘルパンギーナは、まれに以下のような合併症を引き起こすことがあります。
合併症 | 概要 |
---|---|
髄膜炎 | 脳の周りを覆っている髄膜に炎症が起きて、さまざまな症状を引き起こす病気。頭痛や発熱、吐き気、嘔吐、意識障害、首の硬直などの症状が現れる。ヘルパンギーナからの髄膜炎は多くの場合に予後は良好である。 |
心筋炎 | 心臓の心筋(心臓を構成する筋肉)に炎症が起きる病気。発熱やのどの痛み、下痢、嘔吐、息苦しさ、胸の痛み、意識消失などが典型的な症状である。自覚症状がない場合もあるため注意が必要。 |
合併症を疑う症状が現れたら受診する
以下のような症状が現れている場合は、髄膜炎や心筋炎などの合併症を引き起こしている恐れがあります。
- 高熱が出ている
- 2日以上続く発熱
- ぐったりとしており力が入らない
- 水分が取れない
- おしっこが出ない
- 呼吸が速い
- 息が苦しそう
- 視線が合わせられない
- 吐いている
- 頭痛を訴えている
子どもに以上の症状が現れている場合は、速やかに医療機関を受診してください。
ヘルパンギーナや手足口病、溶連菌感染症の違いや見分け方
症状が似ているヘルパンギーナと手足口病、溶連菌感染症の違いは以下の通りです。
ヘルパンギーナ | 手足口病 | 溶連菌感染症 | |
---|---|---|---|
原因 | コクサッキーウイルス、エコーウイルス | コクサッキーウイルス、エンテロウイルス | A群レンサ球菌 |
発症しやすい年齢 | 5歳以下が多くを占める。 | 2歳以下が多くを占める。 | 5〜9歳が約半数、1〜4歳が約4割を占める。 |
症状 | ・発熱に続きのどに痛みや発赤が現れる ・口の中に水疱ができる | ・38℃以下の発熱が現れる ・口の中や手足、肘、膝、臀部に水疱を伴う発疹が現れる | ・発熱やのどの痛み、吐き気、腹痛などが現れる ・リンパ節が腫れることがある |
感染経路 | 飛沫感染、接触感染、経口感染、糞口感染 | 飛沫感染 | |
予防方法 | 有効なワクチンはない。手洗いやうがいを徹底する。マスクができる年齢の子どもはマスクをする。 |
ヘルパンギーナの治療方法
ヘルパンギーナの主な治療方法は対症療法です。熱が下がるまで幼稚園や保育園、学校などは休み、自宅療養をしましょう。発熱や口の中の痛みに対しては、解熱剤や鎮痛剤を用いることがあります。
口の中の痛みにより水分補給ができず脱水症になった場合は、点滴による治療が必要になります。脱水症を引き起こさないためにも、水や経口補水液、イオン水などで少しずつ水分を摂りましょう。髄膜炎や心筋炎は入院治療が必要です。疑われる症状が現れたら速やかに医療機関を受診してください。
ヘルパンギーナの予防方法
ヘルパンギーナに有効なワクチンはありません。手洗いやうがいなど基本的な感染対策を徹底しましょう。マスクができる年齢の子どもの場合は着用すると良いでしょう。
ヘルパンギーナは、発症後2〜4週間は便からウイルスが排泄されます。そのため、子どもの便が付いたオムツや下着に触れたあとは、石鹸と流水でしっかりと手洗いをしてください。
子どもがヘルパンギーナを発症してしまったら、大人も感染しないように体調を整えて、手洗いやうがいを徹底するようにしましょう。
子どもがヘルパンギーナに感染した際の対応方法
子どもがヘルパンギーナに感染した際は以下のような対応をしましょう。
- 室温や衣服を調整して安静にする
- 摂取できそうなもので水分と栄養をとる
それぞれの詳細を解説します。
室温や衣服を調整して安静にする
ヘルパンギーナは高熱を伴うことがあるため、室温や衣服を調整してあげることも大切です。熱が上がっている最中は、寒気やふるえなどが現れるため、衣服を1枚多めに着させると良いでしょう。反対に熱が上がりきると、体が熱くなるため厚着は避けてください。
室温は暑すぎたり寒すぎたりしないようにすることが大切です。以下を参考にして室温を調整すると良いでしょう。
- 秋から冬:20℃前後
- 夏:26〜28℃
基本的には、大人が快適に過ごせる室温でよいとされています。なお「高熱が続いている」「けいれんが見られる」場合は、合併症を引き起こしている恐れがあります。速やかに医療機関を受診してください。
摂取できそうなもので水分と栄養をとる
ヘルパンギーナを発症すると、口の中の痛みにより十分に水分や栄養が取れない場合があります。水や経口補水液、イオン水、ジュースなど子どもが摂取できそうなものを少しずつ飲ませましょう。ただし、酸味の強いジュースは口の中の痛みを強める恐れがあるため避けてください。
食事は以下のような口当たりが良いものをこまめに与えると良いでしょう。
- 冷ましたおかゆ
- 冷ました煮込みうどん
- ヨーグルト
- アイスクリーム
- プリン
- ゼリー
- アイス
- 豆腐
熱いものや硬いもの、刺激が強いものは避けましょう。
ヘルパンギーナの出席・登園の基準
ヘルパンギーナは、学校保健安全法による明確な出席・登園停止の基準は設定されていません。ヘルパンギーナは症状が軽快しても、ウイルスが長期間便から排泄されるため、急性期のみ出席・登園を停止しても、感染拡大の防止対策として効果が期待できないためです。
そのため、ヘルパンギーナを発症したからといって、一律に出席・登園停止とはなりません。出席・登園は、患者さんの状態により判断されるため、医師に相談するとよいでしょう。
ただし、以下のような場合は第3種学校伝染病として扱われ「感染の恐れがない」と判断されるまでは、出席・登園停止になる可能性があります。
- 欠席者の増加により授業などに支障をきたす恐れがある
- 合併症の発生により保護者の間に不安の声がある
基本的な感染対策でヘルパンギーナを予防しよう
ヘルパンギーナは夏に5歳以下の子どもを中心に流行する感染症です。発熱やのどの痛み、口の中の水疱、全身のだるさなどの症状が現れます。子どもが発症した場合は、口の中の痛みにより水分や栄養が十分に取れず、脱水症を引き起こすことがあるため、こまめに水分補給を促すことが大切です。
また、まれに髄膜炎や心筋炎などの合併症を引き起こすことがあります。「高熱が続いている」「ぐったりしている」などの様子が見られた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
感染を予防するには、手洗いやうがいなど基本的な感染対策を行うことが大切です。また、症状が軽快してもしばらくの間は、便からウイルスが排泄されるため、子どもの世話をする方はしっかりと手洗いするようにしてください。
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