百日咳とは連続した咳が長期間続く気道の感染症。乳児の場合は重症化しやすいため注意が必要です。大人は長期間の咳が続いたあとに回復しますが、子どもへの感染源となる恐れがあるため、感染を広げないようにしなければなりません。本記事では百日咳の概要や特徴的な症状と経過、出席停止の基準などについて解説します。
百日咳とはけいれん性の咳が続く感染症
百日咳とは、百日咳菌の感染により発症する気道の感染症です。けいれん性の激しい咳が特徴です。幅広い年代で感染しますが乳児を中心に流行します。感染経路は以下の通りです。
飛沫感染 | 咳やくしゃみの飛沫(飛び散るしぶき)による感染 |
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接触感染 | 感染者が咳やくしゃみを手で抑えたあとに接触することによる感染 |
母親からの免疫が不十分である場合は、新生児のときから感染するリスクがあります。乳児が感染すると重症化しやすく肺炎や脳症を合併することがあり注意が必要です。特に生後6ヵ月以下の乳児では命に関わることがあります。
実際に子どもが百日咳に感染してしまうと、0.2%(生後6ヵ月以下の場合は0.6%)が亡くなってしまうという報告があります。大人が子どもへの感染源となる恐れがあるため、感染を広げないように注意しなければなりません。
百日咳の特徴的な症状と経過について
百日咳は以下のような経過をたどります。
- カタル期:周囲にうつる可能性が高い時期
- けいがい期:特有の症状が現れる時期
- 回復期:激しい発作が治まっていく時期
それぞれの詳細を解説します。
1.カタル期|周囲にうつる可能性が高い時期
百日咳は、百日咳菌に感染して5〜10日間(最大3週間ほど)の潜伏期間ののちに発症します。発症すると、鼻水やくしゃみなどの風邪症状から始まり、徐々に咳の回数が増加して激しくなっていきます。菌の排出量が多く周囲に移る可能性が高い時期です。
2.けいがい期|特有の症状が現れる時期
けいがい期は百日咳特有の発作症状を繰り返す時期です。特有の発作症状とは以下のようなものです。
- 顔を真っ赤にして連続した咳が出る(スタッカート)
- 咳が出たあとにヒューっと音を立てて大きく息を吸い込む(ウープ)
発作にともなって吐いてしまうこともあります。また、息を詰めて咳をしてしまうため、以下のような症状が現れることがあります。
顔面の浮腫(ふしゅ) | 顔が腫れぼったくなること。 |
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顔面の点状出血(てんじょうしゅっけつ) | 細かな血管が破れて生じる小さな出血。赤色または紫色の点が顔に表れる。 |
眼球結膜出血(がんきゅうけつまくしゅっけつ) | 眼球の細かな血管が破れて生じる出血。白目部分が赤くなる。 |
その他にも鼻血が出ることもあります。百日咳は年齢が小さいほど症状が多様になり重傷化しやすいのが特徴です。この時期は2〜3週間続きます。
3.回復期|激しい発作が治まっていく時期
激しい咳症状が治まっていき2〜3週間で現れなくなります。急にぶり返すこともあるため注意が必要です。百日咳は回復するまでに2〜3ヵ月の期間を要します。百日咳の「百日」はこの長引く咳のことを指しています。
百日咳の乳児と大人の症状の違い
乳児と大人では発症した際に以下のように特徴が異なります。
- 乳児は重症化しやすい
- 大人は風邪との見分けがつきにくい
乳児の症状を理解すれば、重症化の疑われる状況にすぐに気づける可能性が高まります。一方、大人の症状を理解しておけば、子どもへの感染源になるリスクを下げることができるでしょう。それぞれの症状の詳細を解説します。
1.乳児は重症化しやすい
乳児の場合は重症化しやすいため注意が必要です。百日咳は新生児や乳児、年長児では、典型的な症状が現れず診断が難しいとされています。以下のような症状が現れている場合は、重症化している恐れがあるため注意しなければなりません。
無呼吸発作 | 呼吸が一定時間止まっている。息を止めているように見える |
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チアノーゼ | 手足の先や唇が青紫色になる。呼吸が不十分になることで起きる |
けいれんや呼吸停止へ進展して生命に危険を及ぼすこともあります。また、肺炎や脳症を合併することもあるため、乳児時期の子どもは特に注意が必要です。
2.大人は風邪との見分けがつきにくい
大人の百日咳は一般的な風邪との見分けがつきにくいです。特徴的な咳症状が現れることはなく、長期間咳が続きやがて回復していきます。
百日咳菌は排出しており、ワクチンを接種していない乳児に対しての感染の原因になる恐れがあるため注意しなければなりません。特に子どもと関わる方で、風邪のあとに咳が長引いている場合は、検査を受けてみたほうが良いでしょう。
百日咳で起きる合併症
百日咳で起きる可能性がある主な合併症は以下の通りです。
- 肺炎
- 脳症
- 肺高血圧症
一般的に大人よりも乳児期の子どものほうが、合併症を引き起こすリスクは高いです。ここでは、それぞれの合併症の詳細を解説します。
1.肺炎
百日咳が重症化すると二次感染により肺炎を合併するリスクがあります。二次感染とは、百日咳菌ではなく他の菌に感染することです。百日咳により細菌から体を守る免疫が低下して他の菌に感染してしまうと考えられます。
乳児における百日咳の死亡原因のほとんどは合併した肺炎です。子どもの肺炎が重症化すると、食べたり飲んだりすることができなくなり、意識障害やけいれんなども現れることがあります。このような症状が見られた場合はすぐに医療機関で受診しましょう。
2.脳症
百日咳が重症化すると脳症を合併するリスクがあります。脳症とは、急激に脳の広範囲が腫れてしまい機能障害が起きる病気です。百日咳による脳症は、百日咳菌の壊死毒素(えしどくそ)が引き起こすと考えられています。
百日咳菌だけでなく、インフルエンザウイルスやロタウイルス、サルモネラ菌など身近な病原体も脳症を引き起こす原因になります。発症率は0.1〜1%ほどです。意識障害やけいれんなどの症状が現れます。脳症を発症すると、以下のようなリスクをともなうため危険な合併症です。
- 生命に危険が及ぶほどの重症化
- 中枢神経系にダメージが及ぶことによる後遺症
近年の調査では死亡率が5%、後遺症の頻度は36%と報告があります。脳症を引き起こさないためには、百日咳に対する治療はもちろんのこと、ワクチンなどによる感染予防も大切です。
3.肺高血圧症
百日咳が重症化すると、肺高血圧症を引き起こすリスクがあります。肺高血圧症とは、肺に血液を送る血管の流れが悪くなることで心臓と肺に障害が起きる病気です。
百日咳の症状である無呼吸や毒素が肺高血圧症を引き起こす原因です。肺高血圧症は酸素が十分に全身に行き渡らなくなりチアノーゼなどが現れます。肺高血圧症から心不全を併発するリスクもあるため、速やかに医療機関で治療を受けなければなりません。
百日咳のチェックリスト
百日咳を見分けるチェックリストは以下の通りです。
- 風邪のような症状のあとに咳が2週間以上続いていないか
- 連続した咳き込みのあとにヒューという音の吸い込みを繰り返していないか
- 乳児や新生児では、他に明らかな原因がない状態で咳のあとの嘔吐や無呼吸発作が起きていないか
前述した通り、大人の百日咳は子どもへの感染の原因になります。疑われる場合はすぐに医療機関で受診して治療をしましょう。また、乳児に無呼吸発作などが見られた場合は、重症化している恐れがあります。すぐに医療機関に向かい適切な治療を受けてください。
百日咳の治療方法
百日咳の治療は、生後6ヵ月以上の乳児に対してはマクロライド系の抗生物質の治療が検討されます。カタル期における抗生物質の投与は、病気の期間の短縮と症状の改善を期待できます。
しかし、けいがい期における抗生物質の投与は症状の改善に有効とされていません。周りへの感染予防のために投与が検討されます。百日咳の感染が見つかるのは、多くの場合にけいがい期です。
そのため、抗生物質の投与だけでは治療が不十分である可能性があります。咳に対しては咳止め薬などの対症療法が検討されます。
百日咳の感染予防法
百日咳の予防には、5種混合ワクチン等の接種が有効とされており、普及とともに感染の数が減っています。一方、ワクチン接種をしていない人や接種していても年数の経過により獲得した免疫が低下している人の発症が報告されています。
百日咳の乳児への感染は多くの場合近親者からです。米国の1306人の1歳未満の乳児に対する百日咳の感染源を調査した結果を参考にすると、約66%が家族からの感染であるという報告があります。家族が感染源となった割合は以下の通りです。
家族が感染源となった割合
兄弟 | 35.5% |
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母親 | 20.6% |
父親 | 10% |
乳児を守るためには、妊婦へのワクチン接種が重要と考えられています。また、子育てに関わる近親者にもワクチン接種が推奨されています。
百日咳の出席停止や仕事を休む基準について
百日咳は第二種感染症に定められています。学校等の出席停止の基準については以下の通りです。
- 特有の咳が現れなくなるまで
- 5日間の適切な抗生物質による治療が終わるまで
症状によって出席停止の基準が変わるため学校や医師に相談してください。仕事を休む基準については、明確な基準が定められていません。就業規則等に従う必要があるため、職場に相談してみるとよいでしょう。
特徴的な咳が続く場合は受診を検討しよう
百日咳は特徴的な連続した咳が現れる気道の感染症。乳児の場合は、特徴的な咳が現れずに重症化する恐れがあるため「一定時間呼吸が止まっていないか」「チアノーゼが出ていないか」を見逃さないようにしなければなりません。
大人の百日咳は、特徴的な咳が現れずに気づかれない場合があります。子どもへの感染源の多くは近親者です。特にワクチンを接種していない方で咳が長引いている方は医療機関で検査を受けてみてください。
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