マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎とは?
マイコプラズマ肺炎とは、頑固な咳が特徴的な呼吸器の感染症です。軽症であれば発熱や咳、喉の痛みなどだけで自然治癒しますが、重症化すると肺炎やその他の合併症を発症する可能性があります。
マイコプラズマ肺炎は、幼児や若年層に比較的多くみられる肺炎の原因です。欧米の調査によると年間で人口の5〜10%の方が感染すると報告があり、日本では晩秋から早春にかけて感染者が多くなります。
感染の多い年代は幼児期・学童期・青年期が中心で、厚生労働省によると毎年の感染者のうち、約8割は14歳以下という報告があります。
マイコプラズマ肺炎の原因
マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマという細菌に感染することによって起こる感染症です。感染経路は以下の通りです。
飛沫感染 | 感染者の咳のしぶきを吸い込むことで感染する |
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接触感染 | 感染者に接触することで感染する |
マイコプラズマ肺炎は、濃厚接触(感染者の近くで長時間過ごすこと)により感染します。そのため、感染の可能性が高いのは、感染者と長時間過ごす家族や友人です。
濃厚接触により感染するため、地域での感染拡大の速度は遅く、学校の中などであっても短時間の暴露(ばくろ:病原菌にさらされること)では、流行する可能性は高くはないです。
マイコプラズマ肺炎の症状
マイコプラズマ肺炎の症状は、以下のように分けられます。
- 初期症状:発熱やだるさ、頭痛など
- 後期症状:湿った咳や胸の痛みなど
それぞれの詳細を解説します。
初期症状|発熱やだるさ、頭痛など
肺炎マイコプラズマの潜伏期間は一般的に2〜3週間です。発症するとまずは上気道(鼻から喉のあたりまで)の症状である発熱や咳、喉の痛み、鼻づまり、鼻水などが現れます。咳は経過にしたがって徐々に強くなり、解熱後も3〜4週間続くのが特徴です。
肺炎マイコプラズマに感染した方の多くは、気管支炎(きかんしえん:肺に空気を送る気道の炎症)で済みます。しかし、一部は下気道(喉の声帯あたりから肺まで)まで感染が広がり肺炎になったり重症化したりすることがあります。
後期症状|湿った咳や胸の痛みなど
マイコプラズマ肺炎は、後期になると以下のような症状が現れます。
- 胸の痛みをともなう咳
- 筋肉の痛み
- 体のだるさ
- 頭痛
年長児や青年では、湿った咳が現れることが多いです。注意すべき症状は、長期間にわたる高熱やひどい咳、噴水のような嘔吐、発疹、ひどく落ち着かない様子などが現れている場合です。高熱やひどい咳などの症状が数日続いた場合は、受診しましょう。
マイコプラズマ肺炎の合併症
厚生労働省によると、5〜10%未満の方が以下の合併症を併発する可能性があると報告があります。
合併症 | 詳細 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
中耳炎(ちゅうじえん) | 中耳腔(ちゅうじくう)という鼓膜の奥にある空間が感染して、炎症が起きている状態。 | 耳の痛み、耳だれ、高熱など。 |
胸膜炎(きょうまくえん) | 肺の表面を覆っている胸膜という薄い組織に炎症が起きている状態。 | 胸の痛み、息苦しさ、背中の痛みなど。 |
心筋炎(しんきんえん) | 心臓の筋肉である心筋に炎症が起きている状態。 | 下痢、嘔吐、胸の痛み、息苦しさ、失神など。 |
髄膜炎(ずいまくえん) | 脳と脊髄を覆っている膜に炎症が起きている状態。 | 腹痛、下痢、嘔吐、項部硬直(こうぶこうちょく:頭を胸のほうに曲げることに抵抗がある症状)など。 |
特徴的な症状に該当する場合は、受診を検討しましょう。
マイコプラズマ肺炎の検査方法
マイコプラズマ肺炎の疑いがある場合は、以下のような検査を実施します。
検査名 | 詳細 |
---|---|
LAMP法(らんぷほう) | コロナウイルスの検査に用いられたPCRと似た検査。遺伝子を増幅させる検査で精度が高い。鼻や喉の粘膜、唾液などから検体を採取する。 |
迅速検査 | 数分で結果が得られる検査。精度は低い。 |
画像検査 | 胸部レントゲン検査やCT検査などにより肺炎の兆候が現れていないかを調べる検査。 |
血液検査(PA法) | 血液を採取して肺炎マイコプラズマに反応する抗体(こうたい:体内の異物を除去する物質)を調べる検査。 |
マイコプラズマ肺炎の治療方法
ここからは、マイコプラズマ肺炎の治療方法である以下の2つについて解説します。
- 抗生剤による治療が基本である
- 重症例ではステロイドの全身投与を検討する
それぞれの詳細を解説します。
1.抗生剤による治療が基本である
マイコプラズマ肺炎の多くは自然治癒します。重症で治療が必要と判断された場合は、抗生剤による治療が基本です。
子どもの軽症の下気道感染に対する抗生剤(細菌の増殖を抑制する薬)の治療は、メリットが少ないと考えられています。
抗生剤の中でも、マクロライド系薬が第一選択です。一般的に効果があれば、投与2〜3日以内に熱は下がります。
マクロライド系薬で効果がない場合は、トスフロキサシン系薬またはテトラサイクリン系薬の投与を検討します。しかし、8歳未満の子どもには、テトラサイクリン系薬は原則投与してはならないため注意が必要です。
2.重症例ではステロイドの全身投与を検討する
マイコプラズマ肺炎の重症例では、ステロイド(炎症を抑制する薬)の全身投与を検討します。抗生剤による治療で効果がみられず、発熱が7日以上続く重症の肺炎に対しては、ステロイド全身投与が有効と考えられています。
しかし、ステロイドの全身投与は、投与条件や投与方法に課題があり検討が必要です。抗生剤の治療効果や診断が不確実な症例に関しては、安易にステロイド投与を実施すべきではないと考えられています。
マイコプラズマ肺炎の感染を防ぐポイント
マイコプラズマ肺炎を予防するワクチンはありません。そのため、以下のような基本的な感染対策と家族内における感染対策をとる必要があります。
基本的な予防方法 | 外出時にマスクを着用する石鹸による手洗いやうがいを徹底する手洗いができないときはアルコール手指消毒剤で消毒する免疫力を高めるために野菜や果物をバランスよくとり、適度な運動もする流行時期は人が密集する公共施設を避ける |
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家族内での予防方法 | タオルを共有しない家でもマスクを着用する感染者と部屋を分ける世話をする人を決めるこまめに手洗い・うがいをする日常的に部屋の換気や掃除を行う |
子どもがマイコプラズマ肺炎を発症した際の3つの対処方法
子どもがマイコプラズマ肺炎を発症した際は「薬を飲んでくれない」「咳や痰がひどいときの対応方法がわからない」などの場面があると考えられます。そのため、ここでは以下のような場面が見られた際の対処方法を解説します。
- 薬が飲めないとき
- 咳がひどいとき
- 痰が出しづらいとき
前提として自宅でできることには限界があります。あらかじめどのように対応すべきか医師や看護師に相談しておきましょう。
1.薬が飲めないとき
マイコプラズマ肺炎の治療は抗生物質が基本であるため、しっかりと薬を飲むことが大切です。しかし、吐き気や咳があるときに無理に子どもに飲ませてしまうと「薬を飲むと吐く」というイメージを持ってしまいます。
咳や痰の症状が落ち着くまでは、様子を見ながら水分補給を優先して、子どもが薬を飲めるタイミングを待つことが大切です。
また受診時に医師に「飲みやすい薬の形に変更できるか」「薬は子どもが飲めるタイミングでよいか」などの相談をしておきましょう。
2.咳がひどいとき
咳がひどいときの対処方法は以下の通りです。
- 空気が乾燥していると咳を誘発するため部屋を加湿する
- 喉が乾燥していると咳を誘発するため少しずつ水分補給をする
- 咳による嘔吐物が喉に詰まらないように横向きに寝かせる
「30分以上咳が止まらない」「顔色や唇が青い」「肩をはげしく上下する呼吸」などが現れている際は受診をしたほうがよいでしょう。
3.痰が出づらいとき
以下の方法を実施すると痰が出やすくなります。
- 痰を柔らかくするために水分補給をする
- 部屋を加湿して喉の乾燥を防ぐ
- 縦抱きをして背中をゆっくり叩く
- 気道を確保するために寝るときは横向きにする
水分は一度に飲ませてしまうと、咳が出たときに吐いてしまうことがあります。少量ずつ無理のない範囲で与えましょう。水分の種類は、乳幼児用のイオン飲料や経口補水液、湯冷しなどを推奨します。
マイコプラズマ肺炎の出席停止や登園・登校の基準
マイコプラズマ肺炎は、学校保健安全法において出席停止などの条件を定められていません。しかし、学校等で通常は見られないような感染拡大が起こった場合は、感染拡大を防ぐために、第三種の感染症の「その他の感染症」として、緊急的な処置をとることもあります。
子どもがマイコプラズマ肺炎を発症した際は、学校医や担当医師に出席停止について相談しましょう。通常、第三種の感染症の登園・登校の基準は、学校医や医師の判断により感染の恐れがないと認められるまでです。
マイコプラズマ肺炎の流行時期は特に注意しましょう
マイコプラズマ肺炎は一般的な風邪と症状が似ています。子どもは軽症で済むといわれていますが、肺炎になったり合併症を引き起こしたりすることもあります。
長期間にわたる高熱やひどい咳、泣きじゃくり落ち着かない様子などが現れている場合は、重症化が進んでいる可能性があるため受診を検討したほうがよいでしょう。
マイコプラズマ肺炎は晩秋から早春が流行時期です。学校や幼稚園で流行しているときは、特に注意して感染予防をしてください。
気になる症状がある場合は、川崎駅東口内科クリニックにご相談ください。